コラム
プロデュース部 プロデューサー S
グローバルサイト構築を成功させる翻訳「プロジェクト準備編」
以前、「グローバルサイト構築を成功させる翻訳者選び、6つの注意点」というコラムで、翻訳前の準備や翻訳者の選定方法を紹介しました。
今回は、実際にプロジェクトが始まる前の、多言語サイト制作・グローバルサイト制作において起こりがちなことと、それを克服し、翻訳プロジェクトを成功へ導くために押さえていただきたいプロジェクト準備のポイントについて、お話させていただきます。
1. 多言語サイト制作・グローバルサイト制作では、スケジュールが遅れがち
翻訳の作業は、残念ながら、スケジュールが大幅に遅れてしまうケースも散見されます。その理由は様々ですが、主な要因には次のようなものがあると考えています。
そもそも、Webサイト制作案件では、翻訳作業中心にスケジュールを引くことはほとんどありません。サイト構築作業のスケジュールが遅れると、その分翻訳作業も遅れていきます。
そして、多言語サイト制作・グローバルサイト制作の翻訳は、通常のWebサイト構築に比べ、翻訳者はもちろん翻訳原稿をチェック・校正するチェッカー、プロジェクトをマネジメントするプロジェクトリーダーと関わる人数が多くなり、どうしても調整に時間がかかります。
また、お客様の担当者の各事業部で翻訳原稿をチェックする必要もあり、その時間も考慮しなければなりません。事業部の方が原稿チェックを行うスケジュールを確保するのが難しい場合、プロジェクトは大幅に遅れていきます。
さらに、翻訳対象となるコンテンツの分量のみならず、原稿やファイルの形式などによってスケジュールが遅れることもあります。例えば、支給原稿が紙スキャンしたPDFや画像データなどの場合には、翻訳作業用データ(文字起こし)へ最適化するのに時間がかかるため、翻訳作業以外でも時間を取られてしまうのです。また、HTML上で翻訳作業を行う場合には、ファイル変換やタグの処理なども発生する場合があります。
2. プロジェクトの進行を大幅に遅らせないために
プロジェクトの進行を大幅に遅らせないために、Web制作会社の弊社で翻訳のコーディネートを行っている私が注意しているのは以下の2点です(これらの作業は専門知識が必要であり、通常翻訳会社が担当することが多いのですが、弊社では翻訳会社と遜色ないレベルで行うこができます)。
(1) 翻訳者のスケジュールとその原稿をチェックするチェッカーのスケジュール
(2) お客様の社内で確認、最終の承認をいただくまでのスケジュール
(1)に関しては、翻訳者が1日あたり翻訳できる文字数などが、目安となります。これは、実際の原文を共有し、おおよその文字数を伝えれば、翻訳者はいつごろ納品できそうかを教えてくれます。また、チェッカーも同じように1日でチェックできる目安の文字数・ワード数があるのでこちらも忘れずに押さえています。
翻訳コーディネータは、これをもとに詳細なスケジュールを立てていきますが、お客様も、翻訳コーディネータなどを通じて、あらかじめ1日あたりの翻訳可能文字数などを確認しておけば、おおよそのスケジュールをイメージすることができるでしょう。
続いて(2)。私は、翻訳者の納品スケジュールを押さえるだけでなく、必ずお客様のチェック体制の確認とチェックにかかるスケジュールを予め確認しておくようにしています。また、複数の事業部への確認がある場合も想定し、お客さまから事業部ごとの担当者へ確認していただくようにしています。
この工程にお客様がご協力いただくことにより、より精緻なスケジューリングや、後々の無駄な時間も省くことも可能となります。
3. 畑違いの翻訳者を複数名コーディネートしたため品質が低下してしまうことも
ひとりの翻訳者で、サイトすべてを翻訳することはそれほど多くありません。
サイトの規模が大きくなれば分業しなければならないことはもちろん、様々なコンテンツが掲載されるようになり、それぞれ最適な翻訳者が異なるためです。
しかし、いたずらに分業を進め、多くの翻訳者をコーディネートしてしまうと、品質の担保が難しくなります。また、畑違いの翻訳者をコーディネートしてしまえば、当然、上がってくる翻訳物の品質は著しく低下します。
品質を保つためには、専門的なコンテンツがどれくらいあるかを見極め、どんな専門領域を持った翻訳者が、どれくらい必要になるかをイメージすることが非常に重要となります。
グローバル展開している日本企業のトヨタ自動車のサイトを例に見てみましょう。
トヨタ自動車コーポレートサイト
http://www.toyota.co.jp/
赤で囲ったグローバルメニューを見ると、「クルマ情報」「テクノロジー」「イベント」「CSR・環境・社会貢献」「企業情報」「ニュース」「投資家情報」「採用情報」と8つのメニューがあります。
以前のコラムで、「誰に訴求するか?」といった内容をお話ししました。グローバルメニューを見ることで、誰に訴求するか=専門性を問われる内容がどれだけあるかをイメージすることができます。さらに、それによって、どれだけの翻訳者が必要になるかを考えることが可能になります。
トヨタのサイトでは、私は、大きく次の4つの専門分野のスキル・知識が求められると仮定しました。
- 企業情報
広報・広告的なコピーライティングのスキル - 製品・技術情報
業界・技術知識+α - 環境情報
ISOなどの規格に関する知識 - IR情報
金融商品取引法や会社法などの法規に関する知識
(1) 企業情報
一般的な文章と思われる方も多いかもしれませんが、私の見解は少し異なります。企業理念や社長あいさつなどは、CI(コーポレートアイデンティティ)に関わる、いわば会社の顔。そのため広報・広告的なコピーライティングのスキルが必要になると考えます。
(2) 製品・技術情報
コーポレートサイトとはいえ、導入実績や技術情報ページでは専門的な内容が含まれることがほとんどです。業界・技術を熟知した翻訳者が必要であることは言うまでもありません。
例えば、トヨタにはトヨタ文化の中で産まれた「トヨタ生産方式」という独自の用語があります。また、昨今のトヨタでは、車づくりや仕事の進め方を新たに示したTNGA(Toyota New Global Architecture、トヨタ・ニュー・グローバル・アーキテクチャ)といった方針を無視して翻訳をすることは難しいでしょう。
しかし、私は、それだけでは不十分と考えます。例えば、トヨタ生産方式における専門用語の一例として次のような言葉が挙げられます。
- ジャストインタイム(Just In Time;JIT)
- かんばん(Kanban)
- ムダ(Muda)
- 平準化(Heijunka)
- アンドン(Andon)
- ポカヨケ(Poka-yoke)
- 自働化(Jidoka)
- 改善(Kaizen)
- 見える化(Mieruka)
これらを「特徴的な車業界の用語」ととらえ、日本語の読みをそのまま英語化することもできるでしょう。しかし、コーポレートサイトという性質上、幅広いステークホルダーが読むと判断すれば、「改善」を「Kaizen」とそのまま訳をつけるのではなく、注訳として本来の英訳「improvement」をつけるなどが必要となるはずです。
そのため、業界・技術知識はもちろん、誰向けに発信するかをしっかり見極められる。そんなスキルをもった翻訳者が必要でしょう。
今まで訳されたことがない製品名をどのように翻訳するかといった質問を受けることがあります。
SEOの観点から言うと、「検索されやすいキーワード」「想起されやすいキーワード」を選定することが重要です。つまりは、翻訳した製品名がGoogle検索に引っかかるか、引っかかったキーワードの検索ボリュームはどれくらいかなどの総合的な判断で訳をつけることが近道と考えます。またこれはお客様が判断しやすい訳であるとも言えるでしょう。
(3) 環境情報
ここに掲載されているのは、単に環境に配慮した活動についてだけではありません。このサイトに限らず、ISO14001といった国際標準化機構が発行した環境マネジメントシステムに関する国際規格に準拠した内容を掲載することが、当たり前になってきたように見受けられます。環境マネジメントシステムは決まった言い回しもあるため、こちらも専門知識を持った翻訳者が必要になるでしょう。
(4) IR情報
IR情報は、アニュアルレポート/有価証券報告書/監査報告書/IRレポート/証券会社年次報告書/損益計算書/決算報告書/財務報告書など多くの種類があります、財務専門の翻訳者であることはもちろん、金融商品取引法、会社法に熟知していることも求められるでしょう。
4. 品質を担保するために
品質を担保するには、以前のコラムで紹介した「翻訳支援ツールを使用する」「用語集を作成する」は大前提としても、3で詳しく見たように、まず、どれだけの翻訳者が必要かを見極め、コンテンツごとに最適な翻訳者を立てることが重要となります。それにより、品質のばらつきを抑えられるだけでなく、納期も短縮することが可能となるでしょう。
また、一つの案件で言語数が多い場合は、プロジェクトチームの人数も更に多くなります。1.で述べたようにHTML上で翻訳作業を行う場合には、ファイル変換やタグの処理などが必要になり、翻訳専門のエンジニアも含めたチーム体制を構築する必要もあります。
そのため、作業内容の共通認識を持たせるための作業指示書を作成、チームでキックオフミーティングを行った上で進めて行くことも有効です。
その際のポイントは、翻訳者の上にプロジェクトリーダーを立て、お客様からのフィードバックを常に翻訳データベース※1上でドキュメントの管理・更新を行うこと。翻訳者の管理も同時に行えれば、大型かつ短納期という案件でも成功に導くことが可能となります。
1 翻訳データベースとは1案件を複数人で行う際の作業効率化を図るためのデータベースの事をいいます。
主に3つの、業界別対訳データベース、新規用語登録用サーバー、新規案件ドキュメント共有サーバーを使用しリアルタイムでアクセス・編集が可能なシステムです。
5. お客様にご確認・ご手配いただきたいこと
最後に、お客様にご確認・ご手配いただきたいことをまとめました。これらを押さえていただければ、スムーズなプロジェクト進行と品質向上を実現できると考えます。
- 事業部別で翻訳チェックが必要かのご確認
- 事業部別で翻訳チェックが必要な場合は、ご担当者のスケジュールを押さえていただく
- 過去に作成された用語集があれば、そのご手配
- 用語集がなければ、過去に翻訳された会社概要またはカタログ・パンフレットの日本語と対象言語両方のデータのご手配・新規コンテンツの原稿をご用意いただく場合には、文字情報が取得できるデータのご手配
- HTMLファイルから直接翻訳の場合には、サーバーへのアクセス権またはファイル一式のご手配
以前のコラムの繰り返しになりますが、翻訳は「翻訳会社や翻訳者に丸投げするだけで上がってくるもの」ではありません。お客様にもご協力いただきながら、様々なアナログな調整を重ねていく作業です。
大きな案件になればなるほど、お客様との協力関係を構築し、強化することは不可欠となります。反対に、それができれば、翻訳のプロジェクトを成功させることは十分可能であると、私は考えています。
大規模サイト構築
万単位の大規模Webサイト構築で起点になるWebマーケティング戦略の策定から、多数の関連Webサイトへ適用することを前提としたガイドライン策定、運用指針やフローの構築までを支援します。
多言語サイト制作
ネイティブ・バイリンガルスタッフがグローバル戦略での多言語展開を全面的にサポートします。英語Webサイト、中国語Webサイト構築などを翻訳・校正含めたワンストップにて対応しています。
翻訳
ホームページ制作・会社案内・カタログ・映像などの広報活動におけるローカライズ翻訳はネイティブによる翻訳またはネイティブチェックが重要視されます。クライマークスでは経験豊富な専門性の高い翻訳者が、お客様のご希望するトーンとマナーに沿った翻訳を提供し、各ツールへの最適化を実現します。
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