Web制作・発注時に必要なヒアリングシートの基本を解説
Webサイト制作を外注する際、分からないことが多いなかで制作会社と認識の齟齬が生じないか不安を持たれる方も多いのではないでしょうか。本記事では発注側と制作側の認識をすり合わせる目的で使用する「ヒアリングシート」について解説します。ヒアリングシート作成段階でのポイントや記載すべき内容など、制作を円滑に進めるための重要な内容までまとめています。
目次
1. Web制作のヒアリングシートとは?
Web制作のヒアリングシートとは、Webサイトの制作時に必要な項目を漏れなく確認するために用いられるシートです。主な記載項目としては、Webサイトを制作する目的やターゲット、デザインに求められるポイント、必要な機能やコンテンツ、スケジュール・予算などが挙げられます。
依頼要件を確認するための面談や見積もりの段階で使用されることが多く、制作側が発注側にインタビューしながら作成することが一般的です。
Web制作において、実際に制作を行うのは制作会社であるとはいえ、あくまでも発注者の要望・想いが起点となります。ヒアリングシートは、単にWebサイトを作ることだけではなく、その先に求める目的を達成するにあたって、必要な情報を整理するために活用します。
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2.Web制作におけるヒアリングシートの重要性
ヒアリングシートは、以下3つのポイントで重要だといえます。
- 認識の齟齬・漏れを防ぐ
- Webサイトの要件・目的を整理する
- 結果につながるWebサイトを実現する
口頭でのやりとりや議事録のようなテキストだけだと、要望がうまく伝わらないことや、漏れが生じてしまう可能性も否めませんが、ヒアリングシートで重要事項を明文化することで認識の齟齬・漏れが防げます。
またヒアリングシートは必要項目が可視化されており、記入する過程でWebサイトで実現したいゴール・要件や戦略を整理できます。
さらにヒアリングシートによってWebサイトの目的・ゴールを明確化したうえで逆算してWebサイト制作ができるので、目指すべき結果を達成しやすくする効果もあるでしょう。
3.Web制作用のヒアリングシート記入前に整理すべきポイント
ヒアリングシートの記入に移る前に、対象事業のマーケティング戦略や、競合情報、目標・展望をまとめておく必要があります。
- 自社のマーケティング戦略の現状
- 競合・参考サイト
- 目標や展望
3-1.自社のマーケティング戦略の現状
Webサイトはマーケティング戦略を実現する手段の1つという位置付けであり、まずは自社のマーケティング戦略またはWebマーケティング戦略を整理しておく必要があります。具体的には、事業目標とターゲット、扱う製品・サービス、重要指標(KGI・KPI)といった要素を洗い出しましょう。
Webサイトを新規制作する場合は、事業における既存の課題やWebサイトに求める役割を整理しておくことが欠かせません。Webサイトのリニューアルの場合なら、既存サイトのアクセス数やCV数といったパフォーマンス状況を可視化しておきます。
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3-2.競合・参考サイト
競合としているWebサイトや、設計・コンテンツ・機能といった観点で参考としているWebサイトをピックアップしておきます。
競合サイト・優良サイトの分析は、差別化を図るため欠かせないプロセスです。競合サイトが扱うコンテンツや優良サイトのサイト設計、背景にある制作上の思想をヒントにすることで、付加価値の高いWebサイトを実現しやすくなります。
また、ベンチマークとしているWebサイトをヒアリング段階で提示すれば、UI・デザインや機能要件を、制作側とすり合わせやすくなります。
3-3.目的や展望
Webサイトを通して実現したい目的や展望も、ヒアリングシートの記入に移る前に整理するべき重要なポイントです。
目的・展望次第でWebサイトの要件・デザインは大きく変わります。例えば、ブランドの認知を主な目的としているならコンテンツ主体となり、販売を強化したいならEC機能の充実化が必要になるでしょう。また自然検索での流入を増やす狙いがあるならSEOを意識したシンプルかつユーザーフレンドリーなサイト構造を目指すとよい可能性があります。
このように、あらかじめ目的・展望を社内で明確化しておくことで、理想のWebサイト像を逆算しやすくなるのです。
4.Web制作用のヒアリングシートに記載する主な8項目
ここではヒアリングシートに記載する主な項目を紹介します。具体的な記載方法や、押さえておきたいポイントも解説します。
4-1.既存のWebサイト・戦略・制作の経緯
公開中のWebサイトがある場合、現状把握のためにURLやコンセプトを記載します。
現在のWebマーケティング戦略といった大きな方針だけでなく、SNSやWeb広告といった現在実施中もしくは実施済みの個別施策があれば、施策内容や成果状況も共有。今後のWeb戦略の整理・調整に役立ちます。
Webサイトのリニューアル・新規制作が必要と考えた経緯やそれにかける想いまで記入することで、Webサイトのコンセプトも制作側に共有しやすくなります。
4-2.自社の製品・サービス
Webサイトで扱う製品・サービスがある場合も、ヒアリングシートに記入します。製品・サービスの特徴だけでなく、訴求ポイントも盛り込んでおきたいポイントです。
具体的には、以下のような項目が挙げられます。
- 製品・サービス名とカテゴリ整理
- 製品・サービスの特徴・優位性
- 該当の製品・サービスを制作した経緯や想い
製品・サービスの魅力を共有することで、Webデザイン・コンテンツのイメージに落とし込みやすくなります。
4-3.Web制作の目的・ゴール
Webサイトによって達成したい目的・ゴールも重要な項目です。具体的には一例として以下のような内容が挙げられます。
- 製品・サービスのブランディング
- 問い合わせ・資料請求件数の増加
- 人材採用ターゲットへの訴求・応募の獲得
- 投資家・取引先への情報開示・信頼性向上
戦略や目的・展望を事前に整理することの重要性については先述しましたが、具体的な到達点をヒアリングシートに明文化することは、効果的なWebサイトを制作するうえでの土台となります。
なお上記の内容を詰める際は、具体的な数値目標を定めることも少なくありません。ヒアリングシート作成の段階で売上目標といった成果指標も整理すれば、Webサイト制作の予算を踏まえて費用対効果を判断する際にも役立ちます。
4-4.Webサイトのターゲット
Webサイトがターゲットとするセグメントや、ペルソナ(人物像)のイメージも重要です。
- 年齢層
- 性別
- 興味関心
- 居住エリア
- 会社の規模・業種(toBの場合)
既存のターゲット像がある場合でも、事業環境の変化に合わせてターゲットは変化していくのが自然です。またWebサイトのリニューアル・新規制作においては合わせてWebマーケティング戦略を見直す場合も少なくなく、ターゲットの再定義が必要になる可能性もあります。改めてターゲット像を検討しておくことは、Webサイト制作においてもWebマーケティングの運用においても役立ちます。
4-5.デザインのイメージ
Webサイトに訪問したユーザーに与える印象や、サイト全体の見やすさ・使いやすさに影響する要素がデザインです。自社のWebサイトにメインで使用したいカラーや、ユーザーに感じてほしいイメージなど、思い描く理想像があれば記載しましょう。
そのほか、すでにある会社のロゴやVI/CI(ブランドアイデンティティ/コーポレートアイデンティティ)、コーポレートカラー・カラーパレット・各種資料なども共有します。
4-6.掲載したいコンテンツ
Webサイトに掲載したいコンテンツもヒアリングシートに記入します。コンテンツとはテキストや画像・動画、あるいは音声といったWebサイトの中身にあたる情報です。既存コンテンツを転用する場合もありますが、Webサイトのリリースを機に、コンテンツも新たに用意したり整理し直すケースが多いでしょう。
Webサイト内に、「製品ブログ」のような情報発信用のオウンドメディアのディレクトリ(カテゴリをまとめたページ群)を設置する場合、どのようなテーマ・ページ構成にしたいのかも整理します。
「ECサイトの場合は製品カタログ」「採用サイトなら採用資料」というように、制作するWebサイトに関連する資料があれば合わせて記載します。
4-7.Webサイトの仕様・実装したい機能
Webサイトの仕様や必要な機能も記入しましょう。
<Webサイトの基本仕様>
- CMS・プログラミング言語・フレームワーク
- 対応デバイス・OS・ブラウザ
- アクセシビリティ設定
- インフラ環境
<機能要件>
- コンテンツ管理機能
- セキュリティ機能
- アクセス解析機能
- データベース機能
- 外部サービス・システム連携機能
- 決済機能
上記はあくまで一例で、要件定義の工程ではさらに多くの仕様・機能要件を詰める必要があります。ヒアリングシートを作成する段階において検討している項目を積極的に提示しておくことで、その後のすり合わせがスムーズになる可能性があります。
4-8.スケジュール・予算
Webサイトのリリース予定時期や、制作に着手すべき時期、そして予算も、ヒアリングシートにおいて重要な項目です。
開発現場では「1人の制作担当者の1ヶ月間の作業量」を「人月」と呼び、「Webサイト制作全体の工数に対してどれくらいの人月が必要なのか」を初期段階で想定したうえで制作スケジュールや必要人員、そして予算を見積もります。
発注者側が想定しているスケジュールや予算を、無駄なく無理なくクリアするためには初期段階での計画の精度が重要となり、この点も念入りにすり合わせておきたいポイントです。
5.Web制作のヒアリングの際に意識すべきポイント
最後に、Web制作において、特にヒアリングシートを作成するような初期段階で意識すべきポイントを紹介します。
5-1.確定事項と曖昧事項を切り分ける
1つ目は、明確に決まっている事項と、曖昧な事項を切り分けて制作側に共有することです。
ヒアリングシートを作成する場は、発注側の確定事項を通知する機会であるとともに、不確定であったり言語化が難しかったりする事項について制作側とすり合わせる機会でもあります。例えば、Web制作ではブランドイメージや社風のような目に見えないものを具体的なデザイン・機能に落とし込んでいく必要がありますが、実際には以下のようなケースも多いものです。
- 表現したいコアコンピタンスはあるが概念的で表現しにくい
- 大まかな方針は決定しているが成果物への落とし込み方法までは決まっていない
Webサイトのコンセプトのような核となるテーマは曖昧なままにせず、納得できるまで制作側と詰めることが、良い成果物を実現するための近道となります。
5-2.制作側による提案を促す
2つ目は、あえて制作会社の提案の余地を残すことです。
特に中〜大規模の組織でこれまで何度もWebサイトの発注・制作経験がある場合、社内において方法論やサイト要件が決まっていることも少なくありません。同質のWebサイトを予算・制作期間を抑えながら量産するうえで、規格化というのは効果的な方法といえます。
ただし、「今回のWebサイトは新たな領域なので、制作方針から提案してほしい」「トレンドも押さえて他社と差別化を図りたい」というケースは、そのような社内の共通認識を絶対視せず、制作会社の提案を促してみるのも1つの手です。社内のイメージを再定義したうえで新たな発想にもとづくデザイン・UI/UXが導ける可能性があります。
6.まとめ
Web制作におけるヒアリングシートとは、発注側・制作側の認識のすり合わせを通して、制作において必要となる情報を漏れなく記載するもので、Webサイトのデザイン・機能要件を詰めていく際の土台となる重要なシートです。
事業戦略といった前提情報を整理したうえで、ターゲットや製品・サービス、コンテンツ・機能といった具体的な項目を詰める必要があり、良質なWebサイトを実現するにはヒアリングシート作成段階における発注側・制作側の綿密なコミュニケーションが必要になります。
「トレンドも踏まえてエンドユーザーに響くWebデザインを作りたい」「自社コンセプトをしっかり理解したうえでWebサイトを作って欲しい」といった要望がある場合は、精度の高いコミュニケーション・提案が可能な制作会社を選ぶことが大切です。
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